──それは、彼らが今よりもっと若かりし頃の話。
 

He does not know yet




「い〜やっほぅ!!」
 その日、銭形幸一は浮かれていた。見ている周りが呆れるほどハイだった。
 まぁ、それも無理からぬことと言えよう。
 何しろ彼は、本日をもって、念願の警部への昇進を果たしたばかりだったのだから。
 ノンキャリアで30になる前に警部になったのだから、大したものである。
 彼は生まれつき燃える炎のような気質の持ち主で、何事にも全力投球、目的の為なら骨身を惜しまない男だった。見かけによらず頭も切れ、勘もよく、根気と体力は人一倍あり、また執念深くもあった。それ故か、常人であれば諦めてしまうような事件ですらも、その持ち前の根性と忍耐で解決に導き、彼が手がけた事件で迷宮入りになったものはひとつもないと言われている。
 そんな有能な彼だったから、このまま順当に行けば、40前には警視にまでなっているのではないかと人々は噂した。勿論、本人もそのつもりだった。 実力で出世して、苦労知らずのキャリア共を見返してやるのが彼の夢だった。
 しかし、そんな彼の完璧な人生計画は、あるひとりの人物の出現によってぶち壊されることになるということなど、この時の彼には知る由もないことだった。



 酒屋で缶ビールを大量に買い込み、肉屋でちょっと奮発して極上のステーキ肉を買い、いつもの煙草屋で愛煙のしんせいを買うと、銭形は足取りも軽くアパートへの帰路についた。顔は始終笑いっぱなしで、鼻歌さえ歌いだしそうな風情である。
 これでキレイな彼女でもいれば言うことはないのだが、仕事一筋の彼には女性と知り合う機会は極めて少ない上に、彼の持って生まれた強面と、常に獲物を求めるようなぎらぎらした雰囲気が、女性を敬遠させる一因にもなっていた。
 しかし今の彼は、彼女のいない独り身の寂しさなど取るに足りないことと思えるほど上機嫌だった。
 さっき買ったばかりのしんせいの封を切り、いそいそと口に咥えると、ゆっくりと味わうように大きく煙を吸い込んだ。その時である。

 ひゅるるるるる……

 何かが落ちてくるような、風を切る音が頭上でした。何だろうかと顔を上に向けかけたその瞬間、

 どがごっ!!

「ぶぎゅっ!?」
 何やら重たいものが、銭形の頭を直撃した。首が折れるかと思うような衝撃をまともに喰らい、銭形はその降って来た何かに押し潰される形になって地面に突っ伏した。咥えたばかりの煙草はその衝撃で何処かに行ってしまい、抱えていた缶ビールと肉が地面に投げ出される。
「………………」
 ほんの一瞬、気を失っていたらしい。憮然とした顔でむっくりと起き上がった銭形は、彼の上機嫌に水を差した落下物を押し退け、痛む首と頭をさすった。
「何なんだ、一体……」
 こきこきと首を動かし、特に異常がないことを確かめると(頑丈な頚骨である)、改めて彼の頭を直撃した物体に目を向けた。
「何だこりゃ?」
 見たところ、ぼろ布の塊のようにも見えた。が、よく目を凝らしてみると、そのぼろ布の塊は人の形をしており、手と足と頭が生えていた。 気を失っているのか、もしくは死んでいるのか、ぴくりとも動かない。
「!? 人間?」
 地面にばら撒かれた缶ビールと肉を拾い集めるのも忘れて、銭形は慌ててその人物を助け起こした。見たところ、随分と小柄な少年である。歳は15〜6くらいだろうか。着ている服はぼろぼろで、顔は泥と汗にまみれている。腕や足からは血が滲み、全身傷だらけだった。落ちてきたことで負った傷ではないことは一目でわかった。恐らくは落ちてくる前に既に傷だらけだったのだろう。
「おい、しっかりしろ!」
 手首を取って脈があることを確かめ、息もしていることを確認すると、銭形はほっと息をついた。しかし何だって、人間がいきなり頭上から降ってきたのやら。世の中何が起こるかわからない。
 完全に気を失っているらしい少年の身体を抱え、銭形はさてどうしたものかと思案した。
 まさか放っぽりだして帰る訳にもいくまい。病院に連れて行くべきかとも思ったが、どうも訳ありだ。面倒事を背負い込むことになりそうな気もしたが、だからといって見て見ぬ振りも出来ない。
 我ながら損な性分だと思いながら、銭形は苦々しく溜息をひとつついた。散らばった缶ビールと肉を拾い集め、少年の身体をよっこらせと背負うと、アパートへの道を急いだのだった。



 アパートに着くと、銭形は取り合えず缶ビールと肉を台所に投げ出すと、少年を座布団の上にそっと下ろした。傷の具合を見ようとした時、それまで意識のなかった少年の目が突如開いた。
「!?」
 それまで意識がなかったとは思えないような敏捷さで、少年は跳ね起きた。獣のような動きで銭形から飛び離れ、警戒心に満ちた目で彼を睨み据えた。その手には、いつの間に抜き取ったのか、銭形の懐に収まっていた筈のガバメントが握られている。
 銭形はあっけに取られ、呆然と自らの懐に手をやった。確かにさっきまでホルスターに収まっていた筈の銃がない。ということはやはり、今少年の手に握られているのは紛れもない自分の銃だ。
 恐るべき早業である。
 銭形は両手を広げて溜息をつき、なるべく穏やかな口調で声をかけた。
「……そんなに警戒しなくていい。何もしない」
「…………」
 しかし少年はガバメントの銃口を銭形に向けたまま微動だにしない。全身で威嚇のオーラを発している少年を見て、まるで毛を逆立てた野良猫のようだ、と銭形は思った。
 しばらくの間、睨み合いは続いた。手を広げたままの格好で、どうしたものかと銭形が思った時、ふっと少年が肩の力を抜いて、銃口を下ろした。それを見て、銭形も広げていた両手を下ろす。ふう、と小さく息をついた少年は、銭形の顔を見て、にっと笑った。先程までとはうって変わって、ひどく人懐こい笑みに、銭形は面食らう。
「……オーケー、おじさん。どうやらおじさんは悪い人じゃなさそ、う…だ……」
 呟くようにそう言うと、少年の身体がふらりと前のめりに傾いた。銭形は慌てて手を差し伸べて、その身体を受け止めた。
「おい、坊主っ……」
「大…丈夫、ちーっとばかし、くたびれてる、だけ……」
 幼さの残る顔に、にひひと力ない笑みを浮かべる少年を、銭形は座布団の上に横たわらせると、
「何処が大丈夫だってんだ。そんな傷だらけで強がるんじゃない」
「いやあ、これっくらいどうってことないよ……全部掠り傷だし。それに……慣れてるからさ」
「慣れてる……?」
 何でもないことのように言う少年の言葉を訝しみ、銭形は首を傾げた。その鼻先に、少年が彼のガバメントを差し出した。
「これ、返すね」
「え? あ、ああ……」
 差し出されたそれを受け取って、元通り懐に収めながら、銭形はしみじみとした口調で言った。
「それにしてもお前、随分と手が早いな。この俺が抜き取られたことに気づかないなんて」
「おじさんがボケッとしてるからさ」
 あっけらかんと少年は答え、その言い草に銭形はむっとして反論した。
「俺は油断なんかしてなかったぞ。お前の手癖が悪すぎるんだ。大体、さっきから聞いてれば人のことをおじさん呼ばわりしてくれてるが、俺はまだ20代なんだぞ。お兄さんと呼べ」
 途端、少年の目が真ん丸になった。次いで、非常に疑わしげな表情になって銭形の全身を眺め回し、これまた非常に疑わしげな口調で言った。
「……嘘だろう?」
「嘘なんか言ってないぞ」
「だって……あんた、どう見たって40代じゃん。若く見積もったとしてもせいぜい30代後半ってとこだろ。サバ読むのも程々にしときなよ」
「よ……!?」
 これにはさすがの銭形もショックを受けた。確かに自分は老け顔だし、実年齢より上に見られることもしばしばあったが、40代に間違われたのは初めてだった。
 絶句して彫像と化した銭形を見て、少年が首を傾げた。
「どしたの、おじさん。固まっちゃって」
「…………どーしたも、こーしたも……」
 銭形はふるふるっと肩を震わせた。懐に手を突っ込み、やおら胸ポケットから運転免許証を取り出すと、少年の鼻先に突きつけた。
「これを見ろ! 銭形幸一、昭和○年12月25日生まれ! 正真正銘の29歳だ、どうだ参ったか!!」
「にじゅうきゅうさいぃ〜?」
 少年は素っ頓狂な声を上げ、目の前に突き出された免許証と銭形の顔とを交互に見つめた。
「うわ、ホントだ。信じらんねぇ……これで29歳? てっきり俺の親父と同じくらいかと思った……」
「つくづく失礼な小僧だな」
 憮然として銭形は免許証をポケットにしまった。
「いや、わりぃわりぃ。だってさ、老け顔っていうのもあるけど、おじさん、歳の割にすっごく貫禄あるんだもん。まさかそんなに若いとは思わなくってさ」
 けらけらと笑う少年を見下ろし、銭形はこめかみをひくつかせながら言った。
「だから、そのおじさんと言うのはやめろ。自分が急に老け込んだような気がする」
「んー……わかった。じゃあ、銭さんってのはどう?」
「……ま、いいだろう」
 銭形が了承すると、少年は嬉しそうに笑い、それから申し訳なさそうに頬をぽりぽりと掻きながら、むっくりと起き上がって言った。
「じゃあさ、銭さん。わりーんだけどさ、何か食う物ないかな。エネルギー補給して、さっさとここを出て行かないと、あんたに迷惑がかかっちまうから……」
 その「迷惑」という言葉の微妙なニュアンスが引っかかり、銭形は怪訝な顔で問い返した。
「迷惑って、そりゃどういうことだ?  そもそもお前、なんであんな所から落ちて来た? その怪我だって、単に転んだとかそういうレベルのものじゃないだろう?」
「それは……」
 少年が言いよどんだ時、玄関で微かな物音がした。それを耳にした瞬間、少年に緊張の色が走ったことに気づき、銭形は少年と玄関とを交互に見た。玄関のドアが乱暴に揺すられる音に混じって、銃の撃鉄を上げる微かな音を耳ざとく聞き取って、銭形は表情を険しくした。
「……お前さん、追われてるのか」
 少年は肩を竦めた。
「まあ、そんなとこ」
「何者だ?」
「聞いてどうするのさ? 銭さんには関係ないよ」
 そうこうしているうちに鍵が強引に壊され、銃を持った人相の悪い四人の男達が、部屋の中に土足のままでなだれ込んで来た。銭形は少年を庇うようにして立ち上がると、じろりと男達を睨みまわした。
「何だ貴様らは。人の家に土足で上がり込むなんて、礼儀を知らん奴らだな」
 男達はそれには応じず、無造作に銭形を押し退けようと、彼の肩に手をかけた。
 その瞬間、銭形はばねのような動きで爆発した。自分の肩を掴んでいる男の手を思い切り引っ張り、前のめりになった男の鳩尾に容赦ない膝蹴りを喰らわせる。気を失った男の腕を更に振り回して、その身体を仲間達の中に突っ込ませ、男達が怯んだその一瞬を見逃さず、銭形は一番近くにいた男の顎に拳を叩き込んだ。
「野郎!!」
 仲間を倒されていきり立った残ったふたりが銭形に銃を向けた。しかし、彼らは引き金を引くことは出来なかった。銭形の脚が綺麗に弧を描いて、たちまちのうちにふたりの手から銃を蹴り飛ばしてしまったからだ。武器を失ったふたりは、とても敵わないと思ったのか、気絶した仲間を置いて逃げ出した。
「あっ、こら、待ちやがれ!!」
 泡を食って逃げ出したふたりを追いかけようとした時、がたりと窓が開けられる音がして、銭形は振り返った。見ると、少年が窓枠に足をかけ、今まさに飛び降りようとしているのが目に飛び込んできた。
「あ、おい、何やってる!」
「ごめんね銭さん、迷惑かけるつもりはなかったんだけどさ」
「いいから、こっち来い! 危ねえだろうが!」
 しかし少年は軽く片手を振ってみせると、躊躇いもせずに窓枠を蹴った。
「うわ、馬鹿、ここは三階……!」
 慌てて窓に駆け寄って見てみると、少年はすぐ傍の木の枝に飛び移り、逆上がりの要領で一回転すると、まるで猿のような身軽さで、すとんと地面に降り立った。呆気に取られる銭形をちらりと見上げ、もう一度手を振ると、そのまま踵を返して走り去ってしまった。
「何てガキだ」
 銭形はぴしゃりと額を叩いた。何がどうなっているのかさっぱりだったが、とにもかくにも、あの少年が何やら性質の悪い連中に追われているのは確かであり、保護する必要があると銭形は判断した。
 取りあえず先程気絶させたふたりを手早く縛り上げると、銭形は電話に手を伸ばした。



 一方、銭形の家から逃げ出した少年は、誰も追ってこないことを確認すると、歩調を緩めて大きく息をついた。
「ふう……もう大丈夫だろ」
 そのままゆっくりと歩を進めながら、先程助けてくれた男の顔を思い浮かべた。
(銭形幸一……か)
 銃を持った男達に対して怯むどころか、自身は銃を抜きもせずに素手でふたりを倒し、残るふたりから武器を奪った鮮やかな手並みといい、あまりにも場馴れなあの態度は、どう見ても只者ではなかった。
「裏の人間には見えなかったけどな……至って真っ当な人間の目をしてたし」
 そうすると、警察関係者か。
 そう思ったが、彼の認識では警察の人間というのは堅気とは程遠い人種であり、法に護られている分、その辺のちんぴらなどよりよっぽど性質が悪い連中だった。しかし、銭形からはその手の連中が纏っているような嫌な空気は感じられなかった。だからこそ、奪った銃を返し、気を許す気になったのだ。
「ま、いっか。どうせもう会うことはないだろうし」
 そうひとりごちて、少年は再び歩調を速めた。が、すぐにぎょっとして立ち止まる。彼の前に黒塗りの車が行く手を塞ぐようにして滑り込んできたのだ。
 慌てて踵を返そうとしたのだが、その背後に先程銭形が取り逃がしたふたりが立ち塞がり、少年の退路を絶った。密かに舌打ちして、目の前に止まった車を睨みつける。
 ゆっくりとドアが開いて、ひとりの壮年の男が降り立った。続いて、部下らしき男達がふたり、その男につき従う。高価そうなスーツに身を包んだその男は、目の前の少年を憎々しげに睨んだ。
「──やっと捕まえたぞ、この薄汚いこそ泥のガキめ」
 少年は男の罵倒に眉一つ動かさなかった。注意深く自分を取り囲む男達を観察し、逃げ出す隙を窺っている。
「盗んだものを大人しくこちらに返すんだ。そうすれば痛い目に遭わずに済むぞ」
 男の威圧に満ちた言葉を、少年はせせら笑った。
「だぁーれが返すかってんだ。大体あれは、もともと俺の爺様のもの、つまりは俺が引き継ぐべきものだ。あんたらのような薄汚いやくざまがいの政治屋が持つべきものじゃねえんだよ」
 男の眉が不快げにひそめられた。
「こちらが下手に出ているうちに返した方が身の為だぞ」
 じりっと、男達が包囲を狭めてくる。子供ひとりと侮ってか、銃を抜く気配はまだない。
(その油断が命取りってね)
 一斉に男達が少年に掴みかかった。少年はまるで足の裏にばねでもついているかのような跳躍力ですかさず飛び上がり、男達の腕に空を切らせた。間髪入れずにひとりの頭を蹴り飛ばし、その反動で包囲を抜けると、行く手を塞いでいた車の屋根をあっという間に踏み越える。あっかんべえと舌を出して見せて、いきり立つ男達を尻目に駆け出した。
「逃がすな!」
 壮年の男が怒りも露に部下達に命じる。その声に応じて、部下達が遂に銃を抜いた。それをちらりと視界の隅に捉えたものの、少年は怯える素振りも見せない。
 銃声が響いた。足元の地面が銃弾に抉られ、少年は飛び退った。続いて二発の銃声が響き、少年の頬と足を掠めた。バランスを崩してよろめいた少年に男達がたちまち追い縋り、銃を突きつけて周囲を取り囲む。
 四つの銃口を向けられても、少年は落ち着き払っていた。それを虚勢とみなして、壮年の男は嘲りの声を投げかけた。
「ゲームオーバーだな、小僧。さあ、盗んだものを返すんだ」
「嫌だと言ったら?」
「この場でこの世とおさらばすることになるぞ」
「やってみなよ。出来るものならな」
「では、そうしよう」
 壮年の男が顎で部下を促し、頷いた男が少年の額に銃口を押し付けた。少年は男達から目を逸らさずに、袖口に仕込んだ催涙弾をそっと取り出し、目の前の男の顔めがけて放り投げようとした。
 ──その時。
「そこまでだ!」
 何者かの大声が響き渡ったと思うと、彼らの前後から投光機の光が彼らの姿を照らし出した。いつの間にか、彼らは警官隊に取り囲まれていたのだ。
「な、何っ!?」
 狼狽える男達の前に、警官隊の中からひとりの男が進み出た。
「警察だ! 全員、武器を捨てろ!」
 そう大声を張り上げる男の顔を見て、少年は目を丸くした。
「……銭さん?」
 警官隊を引き連れて現れたのは、先程彼を助けてくれた銭形だった。
(……やっぱり、警察関係者だったのか)
 取り出しかけた催涙弾を再び袖口の中にそっと押し込みながら、少年は銭形の顔を凝視した。銭形は彼に向かって片目を閉じてみせると、壮年の男に向き直った。
「銃刀法違反及び、殺人未遂の現行犯だ。署まで同行してもらおうか」
 壮年の男はせせら笑った。
「何処の署の警官か知らんが、この私を誰だと思っている。代議士の鎌田の顔と名前を知らんのかね」
 しかし、銭形はそんなことで恐れ入ったりはしなかった。ふんと小さく鼻を鳴らすと、
「それがどうした。代議士だろうが総理大臣だろうが、丸腰の子供を銃で追い掛け回すような輩を見逃すほど、警察は甘くねえんだ」
「き、貴様、この私にこんなことをして、ただで済むとでも……」
「やかましい。御託なら署でゆっくり聞いてやる」
 なおも抵抗する代議士をパトカーに押し込むと、銭形は少年を振り返った。
「坊主、怪我はないか」
 しかし、たった今までそこに居た筈の少年の姿は、いつの間にか忽然と消えていた。
「あ、あれ? 坊主!?」
 銭形は慌ててあたりを見回したが、少年は何処にも見当たらなかった。部下達に命じて、周辺をくまなく探させたのだが、一体何処へ消えたのか、遂に少年を見つけることは出来なかったのである。



「やーれやれ、まさか本当に警察官だったとはね」
 民家の屋根の上で、右往左往している銭形や警官達の姿を見下ろしながら、少年はひとりごちた。
「それにしても……いいのかねえ、現行犯とはいえ代議士を無理矢理引っ張っちゃって。権力にへいこらしないのは格好いいけど、あれじゃあ、出世は無理だな」
 少年はくすっと笑って、
「銭形幸一か……気に入ったよ。縁があったらまた会おうぜ」
 そう言って、少年は身を翻すと、夜の闇の中に溶け込むように消えていった。



 銭形警部はまだ知らない。
 この時の少年が、いずれ自分が生涯を賭けて追うことになる、ルパン三世その人であるということを。
 彼がルパン三世という泥棒の名を知るのは、これより数年の後のことである。







2003.09.21

 

◇高峰春珂さんのHP⇒「Black Tornado]

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ルパンと銭形警部それぞれが「まだ知らない」ころの話。
若かりし銭さんの溢れるパワーや知能的で俊敏な少年ルパンの顔や体躯が
思わず浮んでしまいました(^^)

こちらの小説は東海大オフで参加した皆さんにプレゼントしていただいた作品です。
こんきちさんの「ルパンピンチネタ」というリクエストの発令のもと(笑)書いてくださいました!
う〜ん、ジャリで来るとは・・・素晴らしいっす!\(~o~)/

ありがとうございました!